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名古屋地方裁判所 昭和50年(ワ)1920号 判決

原告 高嶋正雄

原告 高嶋太

右両名法定代理人親権者父 高嶋秀雄

右訴訟代理人弁護士 小澤三朗

被告 清水

右訴訟代理人弁護士 中条忠直

主文

一、原告らの請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告は原告ら各自に対し、それぞれ金三六七万円及びこれに対する昭和五〇年九月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1  原告らは清水朝子(以下亡朝子という)の子、被告は同女の母である。

2  亡朝子は、昭和五〇年一月三一日午前〇時三〇分ごろ、和田武雄が所有し運転する小型乗用車に同乗していたところ、同車両が愛知県豊橋市下地町字瀬上一二番地先交差点において新日本運輸株式会社(以下新日本運輸という)が所有し同社従業員の運転する貨物自動車と衝突し、その際受けた傷害のため同日午前一時五分死亡するに至った。

3  和田武雄の妻和田郁子は右乗用車につき、大正海上火災保険株式会社と、新日本運輸は右貨物自動車につき同和火災海上保険株式会社とそれぞれ自動車損害賠償責任保険契約を締結していた。

4  したがって亡朝子は、前記各保険会社に対し合計金八七六万円(逸失利益金七七六万円、慰謝料金一〇〇万円)の自賠責保険による損害賠償請求権を取得したところ、その死亡により子である原告らが右請求権のうち各金二九二万円の請求権を相続した。さらに、原告らは慰謝料として各金七五万円の、被告は慰謝料として金七五万円及び文書料として金六三〇円の自賠責保険による損害賠償請求権をそれぞれ取得した。

5  原告ら両名の親権者高嶋秀雄(以下原告ら親権者という)は、昭和五〇年三月二五日ごろ、被告に対し、原告ら両名の前記各保険会社に対する各債権の取立を委任し、被告は同年八月右各会社から被告及び原告らの損害賠償金として合計金八〇九万〇六三〇円を受領した。

よって、原告ら各自は被告に対し、委任契約に基づき、それぞれ金三六七万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五〇年九月二五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否および主張

請求原因1ないし4の事実は認める。

同5の事実のうち、被告が金八〇九万〇、六三〇円の損害賠償金を受領したことは認め、その余は否認する。

原告ら親権者は、被告に対し、昭和五〇年三月二五日ごろ、原告ら各自の前記各保険会社に対する金三六七万円の損害賠償請求権を贈与するとともに、右請求権の行使、賠償金の受領に要する原告ら親権者の印鑑証明書、委任状などの関係書類の交付を受けた。

なお、原告の主張は争う。

三、抗弁に対する認否および主張

原告ら親権者が昭和五〇年三月二五日ごろ被告に対し被告主張にかかる書類を交付したことは認め、その余は否認する。

仮に、被告主張の贈与契約があったとしても、それは口頭による贈与であるところ、原告ら親権者は、被告に対し昭和五四年一月二四日の本件口頭弁論期日において、右契約を取消す旨の意思表示をした。

第三証拠《省略》

理由

一、請求原因1ないし4の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二、そこで、原被告らの各主張事実について判断する。

《証拠省略》によれば、原告ら親権者は、昭和三七年六月一六日亡朝子と婚姻し、同女との間に原告らを儲けたが、昭和四三年ごろから同女と別居し、昭和四五年二月一〇日自己が原告らの親権者となってその養育監護にあたることと定めて協議離婚し、その後同女から復縁を求められたものの、既に菅谷倫子と同棲していたこともあって、それを断り、同年一〇月一六日右倫子と婚姻し、以後同女とともに原告らを養育して現在にいたっていることが認められ、他方亡朝子においても、原告ら親権者に復縁を断られてからは、昭和四六年二月二日酒井保一と一旦婚姻したものの、同年八月一四日同人と離婚し、その後古田俊と同棲し、同人と同棲中の昭和五〇年一月三一日交通事故により死亡したことが認められる。そして、《証拠省略》によれば、原告ら親権者は、昭和五〇年三月二五日、被告から亡朝子の死亡事故に関する自賠責保険による損害賠償金の請求手続を依頼されていた被告の長男清水清、その妻秀子より原告らの右損害賠償金請求手続について相談を受けたが、前記認定のとおり既に亡朝子と疎遠になっていることもあって、同女に関する損害賠償金を取得することを積極的に望まず、清および秀子に対し、原告らが自賠責保険から取得し得る損害賠償金はすべて被告に譲るから被告のために早く手続を進めてほしい旨、右金員で亡朝子の供養もやってほしい旨告げ、清および秀子の要求に応じて、右損害賠償金の請求、受領手続に要する印鑑証明書二通を交付したほか、亡朝子の受けた損害に関し自動車損害賠償保障法の規定に基づく保険金損害賠償額の請求および受領に関する一切の権限を被告に委任する旨の記載のある前記各保険会社宛の委任状、亡朝子の子である原告らの損害賠償請求権を原告ら親権者が代理行使し一切の責任を負う旨の記載のある前記各保険会社宛の念書をそれぞれ作成交付したことが認められ(《証拠判断省略》)、《証拠省略》によれば、被告は、昭和五〇年三月二六日清および秀子に依頼して、前記各保険会社に対し被告および原告らの自賠責保険による損害賠償金の請求手続をなし、同年八月八日被告および原告らの損害賠償金として合計金八〇九万〇、六三〇円を受領したことが認められる(上記事実中、被告が損害賠償金八〇九万〇、六三〇円を受領したことは当事者間に争いがなく、右各証拠によれば、被告は、右金員によって亡朝子の墓をたて、仏壇を購入したほか、残余の金員を同女の形見として同女の兄弟に分け与えたことが認められる)。

右事実よりみれば、(1)清水清並びに秀子を介して、原告ら親権者と被告との間で、昭和五〇年三月二五日、原告ら親権者が被告に原告らの自賠責保険による損害賠償金請求権を贈与する旨の書面によらない契約が成立したものと認定するのが相当であり、(2)原告ら親権者が同人らを通じて被告に対し、被告が原告らの右損害賠償金を請求し、これを受領するのに必要な印鑑証明書のほか、前記認定の記載内容のある委任状、念書を作成交付したことは、右贈与の意思を明確に表示し、かつ被告が右損害賠償金の受領権限を有するものと認定されるに足る外観を作出したものとして右贈与契約に関する履行を終了したものと解するのが相当である。

三、よって、原告らの本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 谷口伸夫)

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